元映写技師の僕がお勧めする2017年公開映画5選+あわせて観たい関連作品
Penseur
2018.03.05
まえおき
パンスールに来る前は映画館で映写技師をやっていました。
当時は、「あんな穴倉みたいなところで過ごしているから、性格も暗くなるしモテないんだよ。」
とよく言われてまして、確かに今よりもずっと暗い性格でしたし、彼女もできなかったし、おまけにお金もなかった。
ただ、元々映画をみたり本を読んだりするのが好きな性格でしたので、仕事の合間の暇な時間にアナログ映写機の駆動するカタカタという音を聞きながら、編集台の明かりで本を読んでるときなんかに、
自分はとても文化的な人間だなぁ・・・と、自意識が満たされましたし、それなりの焦燥感はありつつも、割と楽しく一般的な社会人よりも長めのモラトリアムのような時間を過ごしていました。
見たことが無い人にはイメージがしにくいかも知れませんけど、アナログフィルムは嵩の張るものなんですね。
二時間の尺の35mmフィルムを一つのロール状にすると、直径で1.5m以上になると思います。重さも15kgとかを超えるのではないかな。
それが毎週、配給会社から映画館に届き、各地の映画館を周り、公開期間が終わると配給会社に返送される。
加えて、映画は著作権の塊です。
何が言いたいのかというと、それらの現像、輸送や破棄といった管理にはとてもコストがかかる。ということです。
それだけが理由ではないですが、数年前にユニバーサルや20世紀フォックスといった米国の6大映画スタジオが足並みをそろえ、デジタルシネマの普及を押し進めました。
映画館には、嵩の張るフィルムではなく小さなHDDが届き、著作権は認証キーによって管理され、上映はあらかじめPCに登録されたスケジュールに通りに行われるよう自動化されました。
僕は映写機の間を動き回る必要が無くなり、DLP(デジタル映写機)がキセノンライトやCPUを冷却するためのゴーという排気音を聞きながら、決められたシフトの殆どを使われなくなった編集台の明かりで本を読みながら過ごすことになりました。
そんなこんなで、それから色々あって次はデジタルなことを仕事にしようと考え、今はプログラマーをやってます。ぴょんすです。
2018年も三月に入ってしまいましたが、そんな僕が去年公開された映画の中でお勧めのものをピックアップして、関連作品と併せて紹介したいと思います。
パターソン
アメリカのパターソンという街を舞台に、街と同じ名前を持つバス運転手の主人公が、仕事に行き、家で妻と愛犬と過ごし、街の人たちと交流し、詩を書く、その日常を七日間繰り返すだけの映画です。
物語のキーになるような大きな出来事や変化は起こらないんですが、もしかしたら自分にも起こるかも知れないような小さなドラマが積み重なり、街やそこに住む人達への共感が徐々に厚みを増していき、じんわりとした感動が味わえます。
異国が舞台のフィクションなのに、その中で起こる出来事や登場人物の描き方が秀逸で、不思議な既視感を感じます。
自分の日常も、視点によってはこんな風に素敵なものなのかなと少しポジティブな気持ちになります。
疲れている時でも頑張らずに観れて、感情をフラットな方向に戻してくれる。セラピーみたいな超お勧めの作品です。
あと、ポスターのビジュアルが良いです。『少し寂しい気持ちのサブカル女子が「早くこれになりたい…」という言葉を添えてSNSにアップする画像ランキング』の一位が数年ぶりに更新されました(僕の中で)。
関連作品:バッファロー'66
主人公のヴィンセントギャロのダメさと、ヒロインのクリスティーナリッチの溢れる母性がとてもツボで、今でも年に一回は観てます。
「俺、本当にダメな奴だけど恋とかサイコーだと思う。」っていうのを二時間ぐらいかけて説明するだけの映画です。
ちなみに、この映画の主人公とヒロインがモーテルのベッドで抱き合っているシーンが長年『少し寂しい気持ちのサブカル女子が「早くこれになりたい…」という言葉を添えてSNSにアップする画像ランキング』の一位でした(僕の中で)。
沈黙
マーティンスコセッシが、日本の純文学小説『沈黙』を原作に映画を撮ると何年も前から話題になっていたんですが、ついに去年それが公開されました。
キリシタンの迫害を描いた物語ですが、それを支配階級による一方的なステレオタイプな宗教弾圧として描かずに(宗教弾圧には変わりはないですが)、俯瞰した視点から描いており、非常にバランス感覚の取れた、知的な物語となっています。
物語内の主張は、武士は教育を受けた知識人の支配階級で、農民は十分な教化がされていない被支配階級という厳然とした事実に基づいていて非常にリアリティがあり、かつ分かり易い内容になっています。物語が進むほどに抉り出される人間のエゴに小気味よさすら感じます。
尾方イッセー、浅野忠信、窪塚洋介といった日本の俳優人がとても存在感を放っていて、特にキチジローを演じた窪塚洋介の評価が高いです。
作中で一番、弱い人間として描かれるキチジローは、幾度となく他人を裏切って罪を犯し、そのたびに「パードレ(神父さま)、コンヒサン(告解)ば聞いてくだせぇ~」と神父に泣きつくのですが、お約束のようにそのシーンが何度も繰り返されるので、苛立ちや切なさを通り越して笑えてきます。その様を、某番組をもじって「棄教してはいけないジパング24時」と僕達は呼んでいます。
二時間四十分の長尺でテーマも重く、観るのに少し気合の必要な作品ですが、休みの日とかに腰を据えて観て欲しいです。
関連作品:野火
沈黙で茂吉という名のキリシタンを演じたのは、日本の映画監督の塚本晋也です。
塚本晋也は海外の巨匠からも沢山ファンを公言される、日本でも屈指の映画監督ですが、作風はカルト的で興行収入は全然振るわないイメージです。
完全に僕の深読みですが、塚本晋也への激励や支援の意味をこめて、彼をキャストとして選んだのかなと想像して、そこにスコセッシの日本への愛を感じました。
予断ですが、大岡昇平の同名小説がこの映画の原作です。この小説は戦争文学、カニバリズム文学として有名なイメージですが、第二次世界大戦末期のレイテ島での極限状態の描写にはディストピア小説の趣があり、SF好きな人が読んでも面白いのではないかなと思います。
エンドレスポエトリー
1970年代に、『エル・トポ』というカルト映画の代名詞的な作品を撮ったアレハンドロホドロフスキーが、2013年に23年ぶりの新作となるリアリティのダンスを公開しました。
リアリティのダンスは監督自身の自伝を映画化した五部構想の作品の一作目で、このエンドレスポエトリーはその第二作目にあたります。
アレハンドロホドロフスキーは今年で89歳になります。90歳手前の老人が五部構成の映画を撮り始めるところからその情熱のヤバさが伺えます。
五部構想の自伝映画の青年編ということで、恥ずかしくなりそうな青臭さやイタさを感じてしまうような表現が随所にあるんですが、現在の90歳間近のホドロフスキーの人生観や死生観が入り混じって、説得力を失わずに作品が成立しているんですね。予告編を観てもわかりますが、死を間近に受け入れながらこんな青々しい映像を撮るなんて、本当に魅力的なお爺さんだなぁと思うのです。
関連作品:ホドロフスキーのDUNE
「ハリウッド史上最も有名な未完の大作」と呼ばれるSF映画、「DUNE」の企画から頓挫に至るまでの軌跡を描いたドキュメンタリー映画です。
ホドロフスキー監督が、23年ぶりに映画を撮るきっかけとなった作品でもあります。
デザインにメビウス、ダン・オバノン、H・Rギーガー。キャストにオーソンウェルズやダリ、ミックジャガー。音楽にピンクフロイドやマグマなど、各分野のスーパースターをスカウトしていった過程が、ホドロフスキー監督へのインタビューによって語られるんですが、面子を見ただけでも分かるように、この映画が完成していたらどうなっていたんだろうとドキドキします。
ホドロフスキー監督にはカルト教団の教祖や、独裁者のようなカリスマ性があります。
これも余談ですが、去年、葛飾北斎の展覧会を観にいって、90歳手前にして「絵がもっと上手くなりたい」と悔し涙を流した北斎のエピソードと晩年の作品を観て、感動して泣いてしまったんですが、ホドロフスキーもこの映画で言ってるんですね。300歳まで生きて、創作を続けたいそうです。
ギラギラした目で情熱的に、夢や希望を語るおじいちゃんの姿に洗脳され、映画を観ていると異様な高揚感を感じます。
なんでも良いから物を作っている人、作りたいと思っている人にお勧めしたい作品です。めちゃくちゃ元気をもらえます(僕は感動してまた泣きました)。
ベイビードライバー
監督のエドガー・ライトは、アクの強いコメディよりの映画を撮るイメージだったんですが、こんな正統派のエンタメも上手く撮るんだなと驚きました。
銀行強盗などの実行犯を逃亡させる為のドライバー、「逃し屋」の主人公、通称ベイビーが天才的なドライビングテクニックで活躍するクライムムービーです。
ベイビーは幼少期の事故の後遺症の耳鳴りを抑えるため常にiPodで音楽を聴いていて、そのキャラクター性がこの映画の面白さのキモになっています。
アクションシーンで音楽が流れた時の高揚感。随所の挿入歌。音楽が流せない時のピンチ感。溢れるポップカルチャー感が堪らないです。
犯行前の作戦会議中にもイヤホンで音楽を聴いている主人公に、強面のメンバーが絡むんですが、主人公は読唇術で話の内容を完全に理解しており逆にやり込めてしまうシーンがあり、そういった俺TUEEEE感にもグッときます。
この記事であげている作品の中で、一番シンプルに面白くて、万人にお勧めしたい映画です。
関連作品:ゾンビランド
ベイビードライバーの監督、エドガーライトを一躍有名にしたのが『ショーン・オブ・ザ・デッド』という映画です。
ゾンビ・コメディ映画というジャンルを切り開いたのは『ショーン・オブ・ザ・デッド』だと思うのですが、後発のこの『ゾンビランド』の方が個人的に好きです。
主人公を演じたジェシーアイゼンバーグのオタク感、童貞感が萌えなんですよね。これもシンプルに面白くて、万人にお勧めしたい映画です。
お嬢さん
「このミステリーがすごい!」で一位になったイギリスのミステリー小説を原作とした、韓国のミステリー映画です。
監督のパクチャヌクの作品には変態的な暴力描写、性描写、人間のグロテスクな内面を描いた湿度の高い映画が多いです。
「オールドボーイ」という日本の漫画が原作のアクション映画が有名ですね。
このお嬢さんも、露骨な性描写を含むため、各国で成人指定、つまり18禁映画として公開されました。
にもかかわらず批評家から大絶賛をうけ、興行収入的にも大ヒットを記録しており、個人的にも2017年で最も面白かった作品です。
第二次世界大戦中、日本統治下の朝鮮半島である詐欺師の男(藤原伯爵)が日本人の資産家から遺産を騙し取る計画を立てます。
その計画は、男が資産家の令嬢(お嬢さん)を誘惑し日本へ駆け落ちして結婚、その後令嬢を精神病院に騙し入れ、遺産を持ち逃げするという内容です。
計画のサポートのために、令嬢に取り入る小間使いの役として選ばれるのが主人公のスッキです。
彼女は孤児であり、幼いころから詐欺集団に育てられ、スリなどの犯罪技術を仕込まれたしたたかな少女です。
スッキは分け前を手に入れて自由な生活を手に入れるために。藤原伯爵は成り上がりの野望をかなえるために。広大な屋敷に縛り付けられ育てられた、哀れな「お嬢さん」を罠へと誘うのですが。。。
というのがストーリのあらましです。
映画のディテールは、人間の欲望をリアルに描いているのにどこかファンタジックで、グロテクスな描写が多いのに同時に耽美的でもあります。
悪役の残酷さや変態性が時にキュートに見えて、共感できる部分を見出せたりします。
日本の春画が重要なモチーフとして登場するのですが、葛飾北斎の「蛸と海女」の世界観のように、エロシーンで思わず笑いそうになります。(実際、「蛸と海女」の地文は完全に笑かせにきているとしか思えない)
沈黙のキチジローが惨めでありながらもコミカルであったように、この映画もそういった混沌とした二律背反的な要素が説得力を持って共存していて、人間ってこんな感じだよねと思わせる描写が見事です。これは面白い映画の条件だなと思います。
とにかく作劇から細部の描写までが見事で、ぐいぐい映画に引き込まれます。
ミステリーとして先の読めない展開に驚かされるというのにとどまらず、もう先が気になりすぎて思考停止してしまい、後半はただ受身になって映画を観ていました。
価値観を押し付けるわけではないですが、映画をよく観る人はきっと好きだろうからぜひ観て欲しいし、映画をあまり観ない人も、これが面白い映画なんだなと知るために観て損はないと思います。
僕なんか面白すぎて上映中に二回泣きましたから(僕は感動するとすぐ泣く)。
関連作品:なし
書くのに疲れたのでこれで終わりです。
長くなりましたけど、いやぁー、映画って本当に 素晴らしいものですね。それでは、サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ...。